僕は
 東都大に進学するため、九州から東京に出てきたときの右も左も分からなかった時代を思い出す。


 あの時はあの時で思いがあった。


 上京したときの新鮮さと言うのか……?


 そしてあれからもう数年が経っている。


 別に今何か足りてないということはない。


 仕事は山積みされていてオフィスにいるのだし、江美とはずっと付き合えている。


 つまり日々変わらず、充足しているということだった。


 こう思わないと、人間は生き生きとした毎日を送ることが出来ない。


 それに僕自身、ゆっくりとする時間はない分、やはり充実しているのが実情だ。


 何もかもをひっくるめて、今が一番いいと思っていた。


 もちろんこの裁判が終われば、彼女と過ごす時間も取れると感じていたのだし……。


 いったん外に出ると、寒風に吹かれるのだが、しばらく佇んでいた。
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