僕は
「敬一」


 背後から馴染みの声がする。


 振り向くと、江美だった。


「ああ」


「どうしたの?こんなところで」


「しばらく休憩してたんだ。事務所の個室以外の場所で」


「また戻ったら?須山先生もずっとあなたがどこに行ったのか、気に掛けてらっしゃったし」


「そう?須山先生が?」


「ええ。『園岡のヤツ、どこ行ってるんだ』って」


「じゃあ、戻らなきゃいけないな。俺もさすがにずっと部屋にいたから、外気が吸いたくなっただけだよ」


「こんなに汚れた街の?」


「うん。上京してから十年以上経つけど、もう東京の街には慣れちゃったしな」
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