僕は
 いいことが長く続かない以上、逆に悪いことも長く続かないと思えた。


 日本では野川の裁判の証人調べが進んでいる。


 最初放火犯だと疑われた山井謙二郎は釈放され、新宿中央署の神宮警部が再捜査に動いたことで真犯人の野川義勝が逮捕されて、今現在東京高裁にて係争中だ。


 拘留中の野川と品川ボールディング法律所所属の川谷弁護士は定期的に会っているものと思われ、いろいろと話し合っていることが予測された。


 川谷が野川を酌量へ持っていくだけの証拠を揃えるのは、ほぼ不可能だろう。


 僕もあの川谷弁護士が気の毒でならなかった。


 国選弁護人の立場で、明らかにクロだと断定できる被告人を弁護するのは難しい。


 だけど一度死刑判決を受けた人間も人権が保障されている以上、控訴審や上告審などは出来るのだし、実際死刑相当の判決が出れば最高裁まで争うこともあった。


 須山に言われた通り、もうあの裁判に首を突っ込むことはない。


 それに新年度からは須山が所長に就任し、高階が副所長に就く。


 普通の弁護士事務所なら長い間ずっと同じ体制が続くのが普通だが、今法曹界全体が変わりつつある。
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