僕は
 街のあちこちでネオンが灯る港区の景色はとてもいい。


 ワイングラスの中で琥珀色の液体が揺れた。


 思わず気持ちが綻(ほころ)ぶ。


 一瞬だけだったが。


「君は生粋の東京っ子だから、こういった場にも慣れてるんだろ?」


「ええ。……敬一ってそんなに田舎にいたの?」


「ああ。福岡県の外れだよ。大分の方に近い場所だけどね」


「帰省とかするわけ?」


「いや。俺はしばらく九州には戻らないよ。普通にこの街に居続けるつもり」


「でも寂しいでしょ?」


「まあ、確かにな。ホントなら正月とかお盆休みとかに帰った方がいいのかもしれないけど、普通に遠いからね。羽田から福岡空港まで飛んでも、そこから先が大変だから」


「あたしなんか、実家に帰ろうと思えばいつでも帰れるけどね」

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