僕は
 言わずもがなで、四十に手が届く須山は相当なやり手だ。


 しっかりとやる気でいるのは、日々ガラス張りの個室内で資料を読み続けていることでも分かる。


 刑事事件の裁判は膠着(こうちゃく)しやすい。


 何かに付けて。


 そして十月末、東京地裁にて、木崎の巻き込まれた事件の証人調べが始まった。


 検察側・弁護側が出揃う。


 須山はその日、上下ともグレーのスーツを着て、公判に臨んだ。


 一方の検事の能島もダークグレーのスーツを着ている。


 睨み合いが続くのは容易に予測できた。


 僕も黒っぽいスーツで須山の脇に座る。


 傍聴席には江美が座っていた。


 秋から冬に変わる頃で、空気が乾燥していて喉が渇く。

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