僕は
 証人に立ったのは青鹿(あおか)晋一郎という男性で、木崎が110番通報をしたときに電話先にいた電話会社の職員だ。


 弁護側にとっては唯一の証人だった。


「青鹿さん、あなた、あの夜、被告人がホテルの一室で寺田さんの遺体を発見したときの通報を受けましたね?」


「ええ」


「そのとき被告人はどんな感じでした?」


「こう、何て言いますか、戦慄(わなな)くような感じでした。目の前で何か物凄く恐ろしいものを見て取ったといったような」


「その時点で被告人に一定の感情はあったと?」


「ええ。何か怖い物を見たというような声が聞こえていたのを今でも覚えています」


「それは被告人が殺人事件の現場に誘き出されたという、何よりの証拠だと?」


 能島が、


「異議あり!ただ今の弁護人の証拠収集は極めて違法性があり、実質的に被告人に対する心証をよくしようとするものであるものと思われます。裁判記録からの削除を願います」
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