僕は
 そして事実関係を精査しないまま、逮捕にまで踏み切ったのか……?


 そこのところの矛盾点が問題だったし、裁判において一番大きな争点だった。


 証人調べが終わり、裁判官三人と裁判員六人の計九人で審議がなされる。


 そして丸一時間ほどが経ち、元の席に戻った判事が手元にある資料を読みながら、


「判決を申し渡します。主文、被告人は無罪」


 と言って、その判決に至った際の事実関係に関して述べ続けた。


「被告人は被害者の遺体が遺棄してあった現場に、ケータイ電話を使って何者かにより呼
び出され、遺体発見後、110番通報した後、警察官により極めて不当な取調べを受けた。そして逮捕され不当拘留されるという、極めて精神的な苦痛を味わわされた。これは実に司法の場において絶対に許されない行為であり、被告人に全面的に酌量(しゃくりょう)の余地がある。よって被告人を量刑に科することは許されない。以上」


 閉廷となる。


 裁判官と裁判員が退廷した後、能島が一人取り残された。


 法廷内で判決の要旨を聞き終わり、半ば呆れたように、


「……即日控訴するわ」




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