双華姫~王の寵姫~
いつだって那智は、想いを歌にのせ龍に伝えていた。


その真っ直ぐな恋の歌が、恥ずかしいが嬉しかったのだ。



けれど・・・今那智が歌ったのは・・・昔から陽の国に語り継がれる歌。



叶わぬ初恋を嘆き・・・・それでも生きて行く歌だった。



それが・・・那智の答え。



「一緒には逃げられない・・・って事かい?」




龍が尋ねれば、那智の顔が悲しそうに微笑む。




那智の笑顔が大好きだった龍だが・・・その笑顔はあまり見た事がない。



いや・・・見たくない笑顔だった。



その笑顔の時の那智は、いつだって悲しみを押し隠していたから。




「那智・・・・?今なら・・・本当に今なら・・・逃げられる」



むしろ・・・・チャンスは今しかないだろう。



那智もそれが痛い程よく分かる。



柚那がこの場所に誰も近づかないよう見張ってくれている。



那智が望めば逃げれるよう手筈も整えているはずだ。
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