双華姫~王の寵姫~
いくら他の姫達とは違うと言え、まだ15歳の那智には辛い日々だった。



明日からまた笑う為に今日全てを吐き出そう。



那智はそう思い、自分の好みの梅の木を探した。





少し歩くと有栖川本家にある那智が好きだった梅の木によく似た木を見つける。とっさにその木の枝に文がないかを確認してしまう自分に自嘲めいた笑いがもれる。




(ここは後宮…文がついいるはずがない)




分かっていたのに確認する自分は思った以上にこの後宮に参っているのだろう…。



だからお願い…今だけは弱い那智に戻らせて下さい。




誰に言うでもなく漏れた言葉と一粒の涙が那智の頬を濡らした。





那智の琴と歌は即興で作られる事が多い。




その時の気分を音色に乗せ、それに柚那が上手に合わせるのだ。





音色と歌を聞けばその時の那智の気持ちがよく分かると皆に言われたものだ。





那智は小さく息を吐き、心を無にすると静かに弾き始める。






それは悲しい悲しい那智の心。届かない彼の人への思いは悲しい曲になり、梅の木を花を揺らす。


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