双華姫~王の寵姫~
当主である父も親戚達の勢いにはねのける事は難しいと判断したのか、那智と柚那が呼ばれ、どちらが王に嫁ぐか選べと言われたのだ。




那智は空気で分かっていた。




忌み王には忌み子を…周りの空気はそう語っていた。



その為に有栖川に生かされた那智に選択の権利などなかった。





柚那が自分がいくから那智は彼と幸せにというのを押しのけ、那智は後宮入りを決めた。



生かされた有栖川の家の為に那智は嫁いだが、一番の理由は柚那だ。





心優しい柚那は最後まで自分がいくと言って譲らなかった。




しかし那智は知っている。柚那が幼い頃から唯一人の人を愛している事を。



だから那智が後宮に来た。家の為ではなく、柚那の幸せの為に。




自己満足の自己犠牲愛かと言われれば那智は否定しない。




けれど自己満足でも柚那が幸せになるのなら何でも良かった。生まれた時から共に育ち、たくさんの季節を一緒に過ごした那智の片割れ。



自分が後宮に来る事で柚那が幸せなら、那智も幸せだ。たとえ愛する人に二度と会えなくても…



分かっているし納得もしている。ただ心の中で思うのは許してほしい。誰もいない所で紡ぐ思いくらいは与えてほしい。


たとえ体を奪われる事があっても、心だけは奪わないでほしい。


那智は様々な思いを梅の花に願う。



最後に別れた彼は泣きそうな顔をしていた…。今は笑っていてほしい。


那智は泣き続けながらも弾く事を歌う事をやめない。


想いは琴の音になり、歌になり、那智の心を軽くさせてくれる。


泣きながら弾くその姿はまるで梅の精のようであり、弾き終わったら消えてしまうのではないかという危うさを持っていた。

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