双華姫~王の寵姫~
時は少し前に遡る。




王が歩いていると女官達の話し声が聞こえてきた。




「那智姫様大丈夫かしら?」




「紗里姫様達に何かされていないと良いけど…」




女官達からの口ぶりからすると、有栖川の姫は紗里達に呼ばれたらしい。そしてその誘いを断りもせず受けたのだろう。




(あの…馬鹿姫)



那智が最初に王に抱いた感情と全く同じだ。




王は詳しい話を聞こうと女官達に近付いた。女官達は女官達で井戸端会議をしていたら王が現れたのだから驚いただろう。




畏まる女官達から何とか話を聞き出し華の丸に着くと、中から声がしたのだ。




王が那智の下へと通っていると勘違いし、那智の否定の言葉も聞こえていない紗里達は王が扉の外にいるとも知らず那智を問い詰めている。





自分が考えていたような最悪な状態ではなかったものの、王は那智を思い息を吐く。




有栖川の姫なら自分でどうにかするだろうが…



幸也の言葉を思い出す。




《傷ついていないわけではないのです》



こんな事が毎日続けば心労も溜まるし、嫌になるだろう。それに加えて毎日毎日殺されかけている。




傷ついてないはずなど…ないか。




梅の木の下で泣いていた那智を思い返す。




クッと目を開くと、王は部屋の中へと歩き出した。
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