双華姫~王の寵姫~
噂を聞き急いで書いたのだろう。きれいな事に変わりはないが、柚那の字はいつもより少しだけ乱れていた。



後宮に送る文だ。下手な事を書き、万が一間違って誰かに見られたら大変な事になる。




だから柚那はまだ何が間に合うのか、誰が梅の木の下で待っているのかを書かなかったのだろう。





この文も見られればアウトに近いが、詳しい事が書かれてない以上ごまかせる。




まだ間に合う…。




梅の木の下には彼がいる…。




決心が揺らぎそうになる。




柚那は自分が身代わりになる気なのだろう。



那智と柚那。




姿も声もそっくりな二人だ。今二人が入れ替われば誰も気づかないだろう。



そして柚那は那智として、那智は柚那として生きれば良いのだ。




…柚那を犠牲にして。



(そんな事できるはずがない…)




「柚那…柚那…それはできない…できないのよ…」




涙が溢れてくる。





部屋にいる時は泣かないと決めていたのに…次から次へと流れる涙を止める事ができない。



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