双華姫~王の寵姫~
涙は枯れないものだ…と那智が思い顔をあげると、文を持ったまま泣いていた為、文が濡れてしまっていた。




「柚那からの文が…」




キレイに戻そうと思った所で手が止まった。




(…これは…)





涙で濡れた場所に言葉が浮かび上がっている。





見覚えのあるクセのある字は、有栖川本家にいた頃、那智の側にいつもあった文字。





後宮に来てからは懐かしくて愛しくて…後宮の梅の木にないと分かっていても何度その文字を探したか分からない。





浮かび上がった文字はたった四文字だった。




《愛してる》





愛してる…今も変わらず…




彼がそう言った気がした。




(バカな人…妾が泣かなかったら見つけられぬではないか)



無理やりに彼を思い笑う那智。




ここに那智の想い人がいたら「でも泣いただろう?」と意地の悪い笑みを浮かべている事だろう。





那智より二つ上の彼はいつもいつも那智をからかい遊んでいた。



他の者なら苛つく那智も、彼にからかわれるのは嫌いではなかった。




彼がからかうのは那智だけ。




そして柚那と那智を一度も間違えず、いつも那智を見つける彼が好きだった。



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