双華姫~王の寵姫~
側にいる時は恥ずかしがって好きだとしか言ってくれなかった…彼から初めて聞けた愛してるが那智には切なかった。



「文ではなく…側で聞きたかった…な…」



泣けばこの文字は消えずにずっと側にあるのだろうか…那智は泣きながら真剣に考えてしまう。



愛しい人がくれた「愛してる」を消したくはなかった。文字が消えたら気持ちまで消えてしまう気が那智にはした。



そんなはずはない…と自分に言い聞かせるが、不安は消えてくれない。






そこへ女官の声が響いた。



「那智姫様!主上が…」



慌てて入ってきた女官に那智は涙がバレないよう隠す。



慌てている女官は那智の様子がおかしい事に気付いてはいないだろう。




女官を落ち着かせ、ゆっくり話すよう促すと。




「主上が那智姫様の下にと来ております」




那智はとうとう来たかと諦めた。





その時の那智は気付いていなかった。涙が乾いた文から「愛してる」の文字が消えた事を。




そして…文がまだ机の上に置いたままになっている事を。
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