双華姫~王の寵姫~
「姫の部屋に来るのはあの日以来だな」




この国の王は、人の悪い笑顔が良く似合う。




那智は感情の宿らぬ瞳で王を見る。




「相変わらず人形のような姫だな」




那智自身、有栖川那智のスイッチが入ると何も感じなくなる自分が少し怖い。




「申し訳ありません」




全くもって心がこもってない返事である。むしろ神経を逆なでする。




「もう少し感情を出せ」



命令をしても那智には通じないだろうと分かっているが、那智を見ていると一言言いたくなる。



人形ではない那智を知っている分余計だろう・・・。




「申し訳ありませんが、私はこれが私です」





真顔で嘘を吐く女・・・嫌。嘘ではないのだろう。有栖川那智からしたらこれが普通なのだ。



「ほう・・・まぁいい。余がここに来たいみぐらい分かるのだろう?」




那智の事は気になるが、人形のような那智に用はないのだ。王が見たいのはあくまで、感情のある那智だ。




ここにいる那智は那智ではない。




「はい・・・」




少しだけ瞳が揺れた気がしたが、すぐに無表情に戻っている。




「なら話は早い。今宵は有栖川の姫の所に泊まるとしよう」




那智は顔を上げれば涙がこぼれると思い、下を向き答える。





「主上の仰せのままに・・・」


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