双華姫~王の寵姫~
「宴に出れば発表したようなものだ」


その通りだろう・・・。


いつも一人で宴に出ていた王が、隣に姫を連れて行く。それだけで発表には十分だ。



「では・・・その日にお披露目なのですね?」



最後の確認をすれば、志高が頷く。



「悪い」



その一言に様々な思いが入っていることを那智だけが知っている。


志高もこうなる前に、回避できるようあらゆる手段を用いたはずだ。けれど・・・・無理だった。



だから那智に頼みに来たのだ。



床を共にしていないとはいえ、那智以上に志高を理解できる姫は後宮にはいない。


たとえ床を共にしいても、心は共にいない・・・。



「妾は引き受けた。だから謝る必要はないですよ・・・」




最初から覚悟はしていた。


有栖川の姫が嫁げば、正妃にという話も出るだろうと・・・有栖川の者達はそれを狙っていたし・・・だけど選ぶのは王。那智が選ばれるとは決まってはいなかった。



しかし王は那智を選んだ。結局はそういう事だ。


「それに・・・この場所は一人では辛いでしょう・・」



一人で生きていくには冷たすぎる場所だった。



「一緒に助け合っていきましょう」




まだ那智は志高を愛することはできない。志高も那智を愛してはいないだろう。ただ・・・それでも一人よりは二人の方がいいに決まっている。



「ね?」



と笑えば、またも志高に抱きしめられる。




「ありがとう・・・」



小さく呟く志高からは冷徹非道の欠片も見られなかった。



「さぁさぁ・・・それでは今日はどうします?」



上手に志高を自分から離すと、那智は琴を持ってくる。



「弾きますか?歌いますか?踊りはできませんよ」




冗談を言えば、志高は一言「琴を・・・」とだけ囁いた。
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