双華姫~王の寵姫~
どれだけ琴を弾き続けたのか・・・志高が寝ると言ったのはあれから2時間後の事だった。


志高が寝たのを確認すると、那智は零れそうになる涙を我慢することができなかった。


「龍・・・もう・・・戻れない・・・・」


那智が呟いた名前・・・・それは葛城家次男龍の名だった。


幼い頃から一緒に育ち・・・いつの間にか恋に落ちた恋しい人。


あのまま龍と結婚する事を疑ってもいなかった那智はもういない。


龍と共に過ごした10年間が・・・後宮で生きる那智を支えている。


「龍・・・妾が・・・正妃だなんて・・・笑われてるかな・・・?」



那智が静かに泣くのを、志高は床から見ていた・・・。



(やはり・・・泣くか・・・)


本当は・・・まだどうにかできた・・・。


けれど今回の宴に葛城家から次男が来ると聞き・・・決めた。



那智が龍の名を呼んでいたのを知っていたから・・・・。



いつもは長男や当主が顔を出す中・・・今回に限って来る次男。


志高には嫌な予感しかしなかった。


(・・・・那智華に会いに来る・・・)


何度か顔を合わしただけの葛城家次男は身分に囚われず・・・・自分を持っている男だった。


那智を志高から奪っていくことも・・・・十分にありえる男。
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