双華姫~王の寵姫~
そんな恐れ多い事できません・・・と言おうとして幸也は口を閉じる。


那智の瞳が・・・あまりにも悲しそうだったためだ。



本来なら幼い頃も、自分より身分の高い那智を「ちゃん」づけで呼ぶことは許されない。



しかし那智や柚那が「様」づけで呼ぶのを泣いて嫌がった為・・・有栖川の当主が幸也達に「ちゃん」づけで呼ぶよう命令したのだ。



いつだって娘を溺愛する有栖川の当主を思いだし、幸也は苦笑する。



「分かったよ・・・那智ちゃん・・・久しぶりだね?」


幸也がそう呼べば、那智の顔も華が咲いたかのように笑みが漏れる。


「幸兄様・・・・本当にお久しぶりです」


那智と幸也が最後に会ったのは・・・那智の後宮入りが決まる一か月前・・・。



龍と那智から将来の約束をしたと・・・聞いた時以来だった。



「後宮には・・・・」



慣れたか?とは聞けなかった。



いつだって自由だった那智が、この狭い後宮になれるはずはないから・・・。



それを敏感に感じ取った那智も、幸也があまり見た事のない・・・悲しそうな笑みを浮かべている。
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