双華姫~王の寵姫~
那智は咄嗟に返事が返せなかった。


一瞬だけ・・・ほんの一瞬だけ・・・柚那を羨ましいと思ってしまったから。


「そう・・・なんですね・・・おめでとうございます」


那智が何とか自分を取り戻し・・・父に告げれば、父はとても悲しそうな瞳で那智を見ていた。


その目が・・・那智は苦手だ。


那智が黙ってしまうと、隣にいた兄が那智を抱きしめる。



「那智・・・久しぶりだね・・・会いたかったよ」


有栖川家当主の娘溺愛ぶりが有名なら、有栖川家次期当主である那智の兄の妹溺愛ぶりも有名だった。



「一兄様・・・お久しぶりです」


昔と変わらない兄の笑顔を見るだけで、那智は故郷を思い出す。



「那智がいなくなって・・・我が家は光がなくなったようだよ・・・どこかの身の程知らずが那智を奪っていくなんて・・・」



優しそうな見た目に騙される人は多いが、那智の兄である蓮は妹以外には毒舌だった。


その蓮の言葉に志高の顔も変わる。


「おい・・・蓮・・・お前は・・・」


蓮と志高は年も近いためか、他の臣下に比べれば遠慮がない。


ただそれも人と比べればであって、決して蓮と志高が仲が良いわけではない。


むしろ妹を奪っていった分・・・蓮の恨みは深い。
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