それでも、まだ。


2人は全力で走り出した。

後ろからは黒猫が追ってくる気配がする。




『ジルさん!なんとかしないと!神田が…神田が……!』



『セシア落ち着け!こういうときは………塩だ!!』



『いやジルさんが落ち着けぇぇ!なんですか塩って!ナメクジでも退治するんですか!?』



『ゆ、幽霊には効かないのか!?』



『当たり前でしょうが!何驚いてるんですか!?…というか、あれは幽霊なんですか!?』



走りながら会話していると、ジルは無線を取り出した。



『レン!非常事態だ!…おいレン!応答してくれ!』



そういえば『俺達』と言っていたはずだ。レンと此処へやって来たのだろう。



『…レンが出ない…。』


ジルはボソッと呟いた。表情は、絶望感に満ちている。



『…まさかレンさんまで…!?』



きっと自分もジルと同じような表情をしているに違いない。


しばらく2人で走っていたが、ジルはふぅと息を吐くと、立ち止まって後ろを見た。



『…ジルさん、何しているんですか?早く逃げないと……』



セシアも止まってジルの方を見ると、先程の様子とは打って変わり、ジルは落ち着いて刀を抜いた。



『もしかしたら能力で対応できるかもしれない。…セシア、お前は組織に戻って、誰かに伝えてくれ。』



そういうジルの刀には、既に冷気が伴っている。



セシアは一瞬呆気に取られたが、すぐにジルの横に並び、同じように刀を抜いた。


遠くからだんだんと黒猫が近づいて来ている。



『おいセシア……。』



ジルは困惑したようにセシアを見たが、セシアは構わず続けた。



『私の風の能力の方が、闇には相性いいと思いますよ?』



セシアがにこりと微笑むと、ジルは諦めたように溜め息をついた。



『…好きにしろ。』



2人は少し笑い合って、それからすぐに気を引き締め、飛び出すタイミングを計った。



2人の周りには、冷たい風が沸き起こっている。



そして――…




『行くぞ。…名無阿弥陀仏!』



『…いやなんか違いますけど!なんか物騒なんですけど!!』



…落ち着いていると思ったが、そうでもなかったらしい。



ジルにツッコミながらも、セシアはジルの後に続いて飛び出した。




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