それでも、まだ。
―――漆黒の森にて。
月の光さえ殆ど届かない闇に包まれたこの森の奥に、ひっそりと、しかし確かな存在感を持つ闇の城が建っていた。
そしてその城に素早く入っていく2つの黒い背中。
黒い背中はそのまま迷うことなく城の主の部屋まで行くと、一度互いに深呼吸をして扉をノックした。
『……入りなさい。』
扉の向こうから声が聞こえると、2人は嬉々と勢いよく扉を開けた。
部屋の奥の窓の縁に、主は外を眺めながら座っていた。
最も、景色が見えているかどうかは分からない。
『主、やはりいましたぜ。』
『キャハハハハっ!殺し損ねた!殺し損ねた!』
『お前黙ってろ!話ややこしくなんだろ!』
『キャハっ!お前が人間界で殺し損ねたからだ!』
『うるせー分かってらぁ!…ちゃんとトドメさしたんだ俺ぁ!』
『…落ち着きなさい。2人共。』
主が静かに言うと、ピタリと2人は口を閉じた。
その様子に主はにこりと笑うと、2人の方に向き直った。
『…で?結局、石井結菜…いやセシアは生きていたんですね?』
『…はい。情けねぇですが。』
『キャハハハハっ!人間も、いた!』
『………ほぅ。』
主は感心したように顎を摩りながら声を漏らした。
『…それは、使えるかもしれませんね…。』
『主、直ぐに殺しに行かないんで?奴ら、ほっといたら…。』
『…時期を誤ってはなりません。もうすぐ、準備が整います。そして、あの方もやって来る。』
『キャハっ!奴らの裏切り者!裏切り者!』
『ふふ、そうです。…私達にとっては、スパイ、でしょうか?』
主は可笑しそうに笑うと、再び外を見遣った。
『……やっと、復讐の時が来ましたね、人間政府。…そして、人間政府秘密直轄組織。』
穏やかに聞こえる声は予想以上に低く、主に向けて膝をついている2つの黒い背中は無意識にブルリと震えたのであった。
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