それでも、まだ。
『……来たか。』
神田はジルに連れられ、上の階の皆が会議をしているであろう部屋に入った。
そこにはやはりベルガを始めとする面々がいて、ベルガを中心にして、輪になったテーブルに綺麗に並んで座っていた。
そしてなぜだか皆いつもより神妙な顔つきをしていた。
『…あの、私、何かしましたか…?』
その様子に不安になった神田が恐る恐る訪ねると、ベルガがゆっくりと口を開いた。
『そんなに怖がらないでいいんだよ。さぁ、座りなさい。』
『は、はい…。』
神田がちょこんと空いていたセシアの隣に腰掛けると、ベルガは一呼吸置いて話し出した。
『真理さんは、此処に来て、もうすぐ1ヶ月になるかな?』
『あ、そういえば…。』
ベルガに優しく言われて神田ははたと気づいた。
組織に来てから、神田はこの世界の生活に慣れることに精一杯だったのだ。
人間に存在を消されたSeakという殺し屋組織、光のない夜の世界、そして亡くなったはずの親友との再会――…
とにかく目まぐるしかったのだ。自分のことなど、忘れてしまうほどに。
そして何より、楽しかったのだ。
殺し屋の名とは裏腹に、心優しく、懸命に生きている者達との生活が。…親友との毎日が。
神田はチラリと隣のセシアを見た。
セシアもまた、顔を俯かせて難しい顔をしている。
――でも…。
『…きっと、真理さんの家族や友人の方達も、心配している。』
ベルガは哀しそうながらも、微笑みながら続けた。
神田はぎゅっと拳を握り締めた。
――今、家族や友達はどうしているだろう。
突然いなくなった自分を、必死に捜しているかもしれない。
泣いて、悲しんでいるかもしれない。
神田は胸が締め付けられた。
『…それでだ。真理さんが帰れるような機会を作ろうと思ってね。』
『…機会、ですか?』
神田が聞き返すと、ベルガは大きく頷いて、隣のアヴィルに視線を動かした。
アヴィルはその間ずっと腕を組んで目をつむっていたが、ゆっくりと目を開くと、神田の方を見て話し出した。
.