それでも、まだ。
『…1ヶ月後、俺達は年に一度の人間政府との世界会議があるんだが…、そこに真理を連れていこうと思ってる。』
アヴィルは静かに、しかしはっきりと言った。
『世界、会議……?』
神田が目を丸くして聞き返すと、アヴィルの横に座っていたレンがガバッと身を乗り出した。
『…アヴィルさん!やっぱり…』
『お前は黙ってろ。』
レンは何かを言いかけたが、アヴィルに即座に制されると、ぐっと言葉を飲み込み、再び座り直した。
『…世界会議ってのは、名だけだ。大したもんじゃねぇ。俺達が人間政府のとこに行って、挨拶しに行くだけだ。…生憎立場的には、向こうが上だからな。』
アヴィルが苦笑いを浮かべて言うのを、神田は黙って聞いていた。
『当然、そんとき俺達は人間界に行く。…だから、そこで真理を帰そうと思う。…いいな?』
アヴィルは真っ直ぐ神田を見つめながら言った。
『…………はい…。』
頷かないはずがなかった。
元の世界に戻れるのだから。
…しかし、この胸に渦巻く感情はなんだろうか。嬉しいはずなのに、嬉しくないような…。
『…なら話は以上だ。レンとシキ、セシアは後でちゃんと集合しろよ。』
そう言い残し、アヴィルは煙草を加えて火を点けながら部屋を出ていった。
『…真理さん、あなたはこの世界にずっといる訳にはいかない。…それを、分かってくれ。』
ベルガも優しく微笑むと、アヴィルの後に続いて部屋を出ていった。
神田は、何も言えなかった。
…自分が此処にいる訳にはいかないことは、分かっている。でも――…。
ベルガが出ていった後、レンははぁと溜め息をついた。
『なんでよりによって世界会議を利用するかなー…。』
『…せやな。でもなんで急に決めたんやろな。』
シキも不満そうに両手を頭の後ろに組んだ。
『まぁ、2人にもいろいろと考えがあるんだろうよ。ねぇ、ジル。』
マダムがキセルを吸いながらジルに同意を求めると、ジルは小さく頷き、そのまま部屋を出ていった。
『…確かに、仕方ないことだけどさ。…でも、真理ちゃんの手料理を食べられなくなるのは寂しいなぁ。』
レンはわざと明るく神田にそう言ったのだが。
『…すいません、失礼します。』
『真理ちゃん……。』
神田は頭を下げると、逃げるように部屋を後にした。
セシアは、ずっと俯いたまま座っていた。
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