それでも、まだ。
『ゆ、行方不明って…?』
動揺した声を上げた神田とは対称的に、ジルはゆっくりと上を見上げた。
『1年くらい前だったか…。突然行方を眩ませてな。俺達は当然捜したんだが、見つからなかった。』
ジルは下を向くと、端にある箱の前に行き、懐かしむように箱を優しく撫でた。
だがそんな行動とは裏腹に表情は悲しさが僅かに滲み出ている。
神田が何も言えずにジルを見つめると、ジルは神田に向き直り少しだけ微笑んだ。
『…箱ひとつひとつに、一人一人名前が彫られてるんだ。』
ほら、と言われて神田が恐る恐るジルの手元を覗き込むと、そこには綺麗な字で――…
『ナージャ、さん……?』
神田がぽつりと言うと、ジルは小さく頷いた。
『ナージャは、ベルガさんの弟だ。』
『ベルガさんの…?』
『あぁ。いつもベルガさんの背中を追いかけていた。とても真面目な奴だ……。』
それきり黙ってしまったジルに、神田は慌てて口を開いた。
『す、すみません。悲しいことを思い出させてしまって……。』
素早く頭を下げた神田を、ジルは一瞥すると、再び先程手を入れていた箱の前に行き、手を入れた。
『…気にしてないぞ?…それに、ナージャは強い。きっと無事だ。』
思いの外優しい声色に、神田が頭を上げると、ジルの手はベルガの箱の中にあった。
『何故姿を消したのかは分からないが…、きっと訳があるんだろう。組織を裏切るような奴じゃない。』
ジルはその中からあるペンダントを取り出すと、何やらカチャカチャと操作し始めた。
『…だから大丈夫だ。…ときに神田、俺の箱からこれと同じ形のペンダントを取ってくれないか。』
まるで自分に言い聞かせるように話すジルに、神田はそれ以上聞くのが憚られ、黙ってジルの箱の中に視線を動かした。
『…………ん?』
そこで神田はある物が目に入った。
『…………あの、ジルさん。』
『…?なんだ?』
『…これ、何ですか?』
『…何って…っ!い、いや、それは、その……。』
ジルは先程とは打って変わり、慌てだした。
神田が取り出したのは、数珠、十字架などの、所謂除霊グッズだ。…何故か塩もあるのが不思議でたまらないが。
『…やっぱりジルさんもお化けとか怖いん』
『怖くないぞ!断じて怖い訳じゃないぞ…!』
『…あ、ジルさんの後ろに3つ目の猫が……。』
――ガタガタンッ!!
『……いなくなりました。ジルさん、大丈夫ですか…?』
ジルは自身の箱の中に頭を突っ込んでいた。
『い、いや早くペンダントを見つけようと思ってだな…。こ、怖かった訳じゃないぞ。』
赤面しながらガバッと上体を起こしたジルに、神田はクスクスと笑った。
『これを持っていたら安心ですね。』
『……フン。』
拗ねたようにまたカチャカチャさせ始めたジルにまたクスリと笑い、何をしているのか尋ねようと神田が口を開いたとき。
――ドゴォォォォン!
地下室全体が、大きな爆音と共にグラリと揺れた。
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