それでも、まだ。
『――…!』
『な、何?今の地響き…。』
神田とジルが咄嗟に身を低くすると、ジルの胸元で無線が鳴り響いた。
ジルがそれを取ると、いつもより取り乱したマダムの声が聞こえてきた。
『ジルかい?緊急事態だよ…!』
『この爆音か?今地響きが聞こえてる。』
ジルが姿勢を整えつつ冷静に言うが、マダムは取り乱したまま続けた。
『いや、それもだけどさ…。ベルガさんが撃たれたんだよ!』
『『…!?』』
マダムの言葉に、2人は息を飲んだ。
『…何故だ?ベルガさんは組織の中にいたはずだろう…!?』
『私も修業場に居たから詳しくは分からないんだが…、窓から何者かが侵入したみたいだよ。書斎でベルガさんが倒れていたんだ。』
『外から…?』
『あぁ、窓が割れていたさ。…まぁ、詳しい話は後でするよ。それよりジル、今何処にいるんだい?』
『地下だ。』
『…そうかい。じゃあ、1階に行って外の敵を頼むよ。私は窓からの敵を対処するから。』
『分かった。』
ジルは無線を切ると、箱から様々な武器を取ると、体中に手早く備えた。
『…ジルさん…!――…わっ!』
神田が心配そうにジルに近づくと、ジルはいきなり神田の腕を掴むと、そのまま武器庫を飛び出した。
突然のことに戸惑う神田をよそに、ジルはグイグイと引っ張って走ってゆく。
そして長い廊下を走って向かったのは、地下の1番奥にある大きな扉の前。
『…はぁっ…はぁっ…ジルさん、此処は……?』
少し息切れしつつも、神田が尋ねると、ジルは手を離し、扉の両端にあるレバーのうち、片方に手を掛けた。
『…とりあえずもうひとつのレバーを一緒に引いてくれ。』
ジルの有無を言わせない雰囲気に、神田は黙って頷くと、レバーに恐る恐る手を掛けた。
――ガチャン……
2人がレバーを引くと、重々しい音と共に、扉がゆっくりと開いた。
扉の中は天井から吊された蝋燭が燈っているだけで薄暗く、積み上げられた段ボールが不気味に照らされている。
『…此処は、秘密倉庫だ。2本あるレバーのうち、少なくとも1本は幹部が引かないと、開かない仕組みになっている。』
ジルは説明しつつも、しっかりと神田の腕を掴み、足早に部屋の奥へと進んでいく。
神田はされるがまま、ジルの背中を見つめていた。
そして連れてこられたのは、大量にある段ボールによって出来た、小さな物陰。
ジルはそこで腕を離し神田に向き直った。
『神田は此処にいてくれ。』
『…っ!ジルさん…!』
神田が不安そうな表情を浮かべてジルに詰め寄ると、ジルは不意に神田の手を取り、何かを握らせた。
『…これがあれば安心だろう?』
『あ………。』
神田が指を開くと、そこには先程の十字架があった。
神田が驚いてジルを見上げると、ジルはニヤリと意地悪そうに笑った。
そしてくるりと背中を向けると、扉に向かって走り出した。
『…ジルさんっ!』
神田が思わずジルを呼び止めると、ジルは背中を向けたまま止まった。
『……気を、つけて。』
搾り出すように神田が言うと、ジルは顔だけ振り返って優しく微笑み――…
『……あぁ。』
そう言って出て行き、扉を閉めた。
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