それでも、まだ。


『マダム、そっちはどうだ?』



ジルが無線に向かって問い掛けると、すぐに返事は返ってきた。



『ん〜、まだまだいるさ。…攻撃は大したことないけど、数がすごいよ。…まるで、私たちをおびき出すようさ。』



マダムのまだ余裕のある返答にジルは少し安心すると、静かに口端を上げた。


『…そうか。もうすぐ応援が行くから、それまで頑張ってくれ。…俺は、外に出る。』



ジルの言葉に、マダムが無線の向こうで一瞬息を呑んだのが分かった。



『外にいるのは村人なんだろう?何する気だい?』



『村人には危害を加えない。…ただ、厄介な奴も紛れ込んでいるようだ。』



ジルの何かを含んだ言い方に、マダムは何かを悟ったのか、諦めたようにため息をついた。



『…無理すんじゃないよ。』


『…あぁ。』



そう言って無線を切ると、漸く開きはじめた門の隙間からするりと外に抜け出した。



そしてジルが出るとまた重々しい音と共に閉じた門を見送ってから、ジルは正面を見遣った。



既にジルの周囲は村人たちに囲まれており、皆が敵意の眼差しでジルを睨んでいる。



――…一体、どうしたというのだろうか。自分たちが何かしただろうか。



ざっと見渡すと、村人の数は百を超えているように思える。



だがジルは動じもせずに意識を集中させると、静かに刀を抜いた。




――ウオォォォォ!!!


すると待っていたかのように村人たちは一斉に凄まじい怒声と共に襲い掛かってきた。




『…すまない、暫くおとなしくしていてくれ。――水廉。』



ジルが刀を振り上げると共に、ジルの周囲で勢いよく水が立ち上り、そのまま村人たちを呑み込んで流れていく。




『―ぎゃあぁぁぁ!!』



村人たちは悲痛な叫びを上げながら、あっという間に流され、組織から離れていく。



そして村人たちが遠くで止まり、倒れているのを確認すると、ジルはふぅと息を吐いた。



加減はしたから、きっと怪我はないだろう。


――それよりも、今は。




『キャハハハハッ!流石だな、ジル!』



ジルは上を見上げた。



『…ペトラルカ……!』



宙にはオレンジ色の短髪で、黒いマントに身を包んだ女が大きな鎌に乗りながらこちらを見下ろしていた。



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