それでも、まだ。
『…一体何のつもりだ。』
ジルがペトラルカを睨みながら言うと、ペトラルカは怖じけもせずに愉しそうに口を開いた。
『キャハッ!何のつもりかって!?…決まってるだろ!準備が整ったからだ!』
『…準備?何のだ。』
高い声でまくし立てるように言われ、ジルは頭が痛くなる気がしつつ言うと、ペトラルカは乗っていた鎌から下り、そのまま鎌を構えた。
…依然として宙に浮いたままであるが。
『…お前らへの復讐だ!!キャハッ!主はもう、完全に復活した!!』
目をギラギラさせて言うペトラルカに、ジルは眉を潜めると、同様に構えた。
『…。…ならば村人たちもお前らが何かしでかしたのか。』
『…キャハッ!…おいお前達!いつまで寝てるつもりだ!?さっさと立て!そしてさっさと帰りな!!』
ペトラルカがそう言うや否や、倒れていた村人たちがゆらりと立ち上がり、集団でゆっくりと歩いていく。
――村の方ではなく、漆黒の森への方向へ。
『なっ……!』
ジルが目を見開くと、ペトラルカはニヤリと口端を上げた。
『…これが答えだ!キャハッ!』
そう言うと、ペトラルカは勢いよくジルに向かってきた。
『――!』
――ガキィィンッ
上から全体重を乗せて切り掛かってきたペトラルカを、ジルは難なく受け止めた。
『キャハッ!じゃあこれでどうだ!?』
言うや否や、鎌から蔓が伸びてきて、ジルの腕に巻き付いてきた。
『―!……くっ!』
ジルはペトラルカを押しやると、ぶちりと蔓を片手でもぎ取った。
『――ICE・SHOT!』
そしてすぐに反撃をしかけたが、ペトラルカは身軽に攻撃をかわし、再び宙に浮いた。
『…おい、遊んでいるのか…!?本気でかかって来い…!』
ジルがいらつきを隠せずに言うが、ペトラルカは上機嫌で鼻歌を歌っている。
辺りは曇っており、今にも雨が降り出しそうだ。
『…キャハハハハハハ!!』
やがていきなり笑い出したペトラルカに、ジルは更に眼光を鋭くした。
『…おい、何笑って…』
『お前らは、気づかないのか?』
突然の問いかけにジルが思わず黙ると、ペトラルカは鎌に乗り、またニヤリと笑った。
『…なぜ、こんな周りくどい攻撃をするのか、どうして空からも攻撃して組織内の奴らをバラけさせたのか―…。』
黒いブーツを履いた足をぶらぶらさせながら言うペトラルカに、ジルは背中から嫌な汗が流れるのを感じた。
――他に本当の目的があるのだろうか。
でも、それがボスであるベルガだとしても、もうベルガは負傷してしまっている。
アヴィルも今は組織にはいない。
組織内にある物を狙っているのなら、単純に組織をもっと破壊すればいいだろう。
…自分たちをおびき寄せ、組織を壊さずに狙う目的。
まるで、その目的を傷つけないようにしているかのように。
――…まさか…。
『…キャハッ!お前らの所には、人間が一人、紛れ込んでいるらしいなぁ…!?』
『――…っ!』
ジルは、歯をギリッと噛み締めた。
辺りはいつの間にか雨が降り出していた。
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