それでも、まだ。
『キャハハハ!!図星か!』
愉しそうに笑うペトラルカを余所に、ジルは頭をフル回転させていた。
――どうする…!?組織に幹部はジルとマダムしかおらず、しかもマダムは上にいる。
もしかしたら、もう既に誰かが潜り込んで神田の元へ向かっているかもしれない。
組織内の人数は今は少ないのだ。きっと目が届かない場所からとっくに侵入しているに違いない。
もちろん部下たちは神田の存在さえ知らないのでむやみに行かせることは出来ない。
あの頑丈な扉を壊せる奴はそういないとは思うが…、万が一それがリーヤやその主とやらだったら。
自分がこの女を倒してから行くと言うのが一番いいのだろうが、今の状態からだと、遊ばれて時間を稼がれるだけだろう。…ならば。
『――…。――水柱!』
ジルは決意したように刀を振るうと、水柱を突き上げて目を眩ませその隙に組織に戻ろうとした。
『…キャハッ!すると思った!逃がさない……!』
水柱を突き抜け、蔓が伸びてきたかと思うと、素早くしっかりとジルの手足に背後から巻き付いた。
『…くっ…!』
『キャハッ!気づいてももう遅い!…それに、私が行かせるはずも………ないっ!!』
ペトラルカはそう言うと、蔓を巻き付けたままジルを持ち上げ、地面に思いきり叩きつけた。
――ドガァァン!
『ぐぁっ!……っ…くそ…。』
ジルはすぐに体制を整えると、すぐにペトラルカに向き合った。
『キャハハハハハハ!さぁ、どうする!?』
ジルはペトラルカを険しい顔つきで睨んでいたが、ふとその向こう側を見遣ると、僅かに口端を上げた。
『キャハッ!どうした!?もう諦めたか!?』
ペトラルカは嘲笑うように言ったが、ジルは気にもせずに再び刀を振り上げた。
『…いや、違うさ。――氷空間!』
ジルが刀を回すように静かに振ると、ペトラルカの周囲の雨が凝固し、囲むように凍りついてペトラルカの身動きを封じ込めた。
『―!?これで時間稼ぎでもしようって!?無駄だ!こんなもの――』
『それはどうかなぁ?』
ペトラルカがハッとして首だけなんとか後ろを向けると、そこには既に跳んできて刀を振り上げているレンの姿があった。…表情はもはや悪人顔である。
『…知ってた?過冷状態からいきなり過熱しちゃうと、そこには物凄い負担が掛かるんだってさ。…もしかしたら身体が割れちゃうかもね。』
レンの頭上では、炎に包まれた気流が渦巻いている。
『キッ!?まさか…!や、やめ――』
『――狂炎銃!』
――ボゴォァァァン!!
『ギャバァァァァ!!』
レンの放った火柱は周りの氷ごと巻き込んで凄まじい勢いで地面にたたき付けられた。
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