それでも、まだ。
『さっき真理が会ったのはシーホークっていう奴で黒組織のボスだ。』
神田が戻ってから神田を含む皆の報告から始まり、それが終わると、アヴィルは神田に向かってそう告げた。
ーーーさすがに、神田がシーホークに言われたことは詳しくは言えなかったが。
『その、黒組織ってどんな組織なんですか?』
神田が背筋を伸ばして尋ねると、アヴィルは今日何本目になるか分からない煙草を取り出し火をつけた。
『黒組織ってのは………、簡単に言えば反人間組織だな。人間と共存することを拒む連中だ。』
アヴィルは煙を吐き出しながら悲痛な顔を浮かべた。
『当然、俺らとは敵対する関係だ。まぁ、規模は俺たちの組織よりも小さいものなんだがな。……それに、最近まで、黒組織は無くなっちまったと思われてた。だが……。』
『でも………?』
神田が身を乗り出すと、隣に座っていたジルが代わりに口を開いた。
『…最近、黒組織の奴らが目撃されるようになってな……。黒組織がまだ存在していたことが分かったんだ。』
『…その黒組織の人達は、危険な人達なんですか?』
神田がシーホークの機械的な笑みを思い出しながら聞くと、今度はレンが身を乗り出した。
『危険だよ。奴らは人間を酷く嫌っていて、いつか人間界を滅ぼそうと考えているんだよ。……ふぇっくしょん!』
『だから俺に向かってくしゃみするんじゃねぇ!……ったく。』
ブツブツ文句を言いながらもアヴィルはレンにティッシュを渡すと、煙草を灰皿に押し付けた。
『とにかくだ。近づくには危険すぎる連中だ。……そいつらが、漆黒の森にアジトを作っている。』
アヴィルの言葉に、その事実については幹部も知らなかったのか、みんな目を見開いた。
『ホンマか?じゃあ、あれから漆黒の森の治安が悪くなったのも……。』
『あれからって……?』
神田がキョトンとしてシキに聞き返すと、シキははっとして口を噤んだ。
部屋に嫌な沈黙が数秒流れた。
神田は部屋の空気が一気に緊迫したものに変わったのを肌で感じた。
背中には、冷や汗が流れている。
ーーもしかしたら、【あの事件】とやらと、関係があるかもしれない。そして、セシアとももしかしたら……。
そして暫くの沈黙を破ったのは、アヴィルだった。
『…3ヶ月前、漆黒の森の治安を揺るがすある事件が起こった。』
神田はピクリと肩を動かした。
『ある事件って……?』
『それは言えねぇ。』
『………っ!』
即座に断わったアヴィルに対して、何とか聞き出そうと顔を向けた神田だったが、アヴィルの思いの他冷たい眼に、思わず口を噤んだ。
ーーまるで、知る必要はないとでも言われているようだった。
固まってしまった神田に、アヴィルは煙草を揉み消すと、徐に立ち上がった。
『…話は以上だ。テメーら、任務に行くときもだが、ここにいるときも油断するんじゃねぇぞ。』
そして、そのままアヴィルは部屋を出て行った。