それでも、まだ。
ーーーーーー
『……なぁ!なぁって!』
シキは部屋から出て行った後、さっさと行ってしまう3人を追っていた。
先程から呼べかけても誰も答えることなく、どんどん先へと進んで行く。
それでもシキが根気強くついていくと、3人はそのまま階段を降りて行き、修業場へ入っていった。
シキも続いて勢いよく扉を開くと、マダムはもういなかったが、レンとジルはこちらに背を向けて立っていた。
『…おい!何もあそこまで言う必要は……。』
『じゃあ、どう言うの?』
レンは言葉を遮ってシキの方へ振り返った。
『…どうって……。』
口ごもるシキにレンは鼻で笑うと、両手を頭の後ろに組んだ。
『優しく言っても、真理ちゃんは期待するだけだよ。』
いつものような口調とは裏腹に、予想以上に冷たい眼に、思わずシキは怯んだ。
『……それに。』
レンはコンクリートで出来ている天上を見上げた。
『知られるのが迷惑なことは、本当じゃない。』
『ーーー!』
シキはその言葉にカッとすると、ズカズカと近づいてレンの胸倉を掴んだ。
『だから、そこまで言う必要はないやろ!』
シキはレンを睨んだが、レンは表情を変えずに視線を合わせた。
『だから、どう言えばいいのさ。』
胸倉を掴まれたままレンは口を開いた。
『……知ったら危険だから、教えられない…….、ごめんね、迷惑とかじゃないんだーー…。……笑わせないでよ。』
レンは口端を上げた。
『なんでそんなに気を使う必要があるのさ?所詮、真理ちゃんは外部のーー…』
ーーー…バァン!!
突然、その場に凄まじい音が響き渡った。
2人が音のした方を見ると、ジルが木刀を持って壁際に立っていた。
表情は見えないが、壁には穴が空き、煙が立ち上っている。
『…それくらいでやめておけ。言い合っても、何も変わらない。』
そう言うとジルは木刀を置き、入口の方へ歩いて行った。
『…どこ行くの?』
レンはシキの手を振りほどきながら言った。
『……任務だ。』
ジルは立ち止まらずにそのまま静かに出て行った。
レンは溜め息を吐き服を整えるとシキに背を向けた。
『……僕も今から修業するからさ、出て行ってくれない?』
シキは振りほどかれた腕をダラリと垂らしていたが、レンが更衣室に入ったのを確認すると、自分もジルが出て言った方向へ足を向けた。
『……なんやねん…。』
シキの言葉は広い修業場の中に静かに吸い込まれて消えて行った。