それでも、まだ。
セシアは医療室を出ると、飲み物を何か飲みに行こうと思い、台所へと向かった。
台所に入ると、見慣れない女性が冷蔵庫を開けてしゃがんで食料を入れているのが見えた。
『あなたは…?』
セシアが恐る恐る呼びかけると、女性はこちらに気付き、立ち上がった。そしてセシアの顔を見ると、驚いたような表情をした。
セシアはその顔に、懐かしいものを感じた。
『…もしかしてセシアちゃん?大きくなったねえ!』
すぐに満面の笑みになって気さくに話し出した女性にセシアはどう反応したらいいかわからず首をかしげると、女性は納得したようにああ、と手を合わせた。
『そういえば記憶がないんだったね。私は蘭だよ。物売りの仕事をしてんだ。』
―――
セシアは蘭とすぐに打ち解けた。蘭の優しく包容力のある雰囲気に、セシアはとても居心地の良いものを感じていた。
『私はセシアちゃんのお母さんと仲がよかったからねえ。その子供がお母さんそっくりに美人さんになるなんて、なんて喜ばしいことじゃないか。』
その言葉にセシアはこそばゆい気持ちになりながら、疑問に思っていたことを聞いた。
『あの、みんな私のことを見ると大きくなった、って言うんですけど、それはどういう意味なんでしょうか。私は最近までみなさんに会ってなかったんですか?あと、今私のお母さんって…』
セシアの言葉に蘭は少し気まずそうな表情をした。そしてしばらく黙ってしまったが、決意したように口を開いた。
『アヴィルたちには私が言ったって言わないでね。そうね…セシアちゃんのお母さんは昔セシアちゃんが幼いときに亡くなっちゃって…。そしてセシアちゃんは、人間界にいた時期があったのよ。』
セシアは目を見開いた。