それでも、まだ。
『セシアちゃんのお母さんはとっても優しい子だったわ。ベルガやアヴィル、レンやジルもかわいがっていたわね。』
蘭は嬉しそうに、そして少し悲しそうに話した。
セシアは初めて聞いた記憶に残っていない母について聞き、どう思っていいかわからずそのまま蘭をみつめた。
『人間界にいたというのは?』
セシアはなんだか母について心の奥底から湧き出てきそうな感情を思い出したくなくて、口を開いた。
『そうね…人間界のことについては、あんまり私の口からは言えないけど、結構長い期間いたわ。だからそんな風に言われるんだと思うわ。私も含めてね。』
セシアは蘭の言葉を必死に理解しながら頭の中で考えを巡らせた。
―――人間界にいるときに神田に会っていたに違いない。だから神田も自分を見て懐かしむ目をし、自分自身もそんな感情が生まれたのであろう。
セシアは妙に納得しながら蘭の話に耳を傾けた。
『それにしても、今の漆黒の森は不気味だねえ。今にもこの世界が深い闇に飲み込まれそうだ。』
『漆黒の森は昔から危険だったんですか?』
『ん?あぁ、そうだねえ。好んで立ち寄る人はいなかったね。でも、昔は均衡がちゃんととれていたんだ。』
『どんな風にですか?』
『…あの森は確かに危険なんだけどね、この世界を守る守護神がいるとも言われているんだ。だが、黒組織によってその均衡が乱されつつあるんだ。どんな状況になっているかは詳しくはわからないらしいんだがねぇ。』
『…それは3か月前くらいからですか?』
『え?あぁ、言われてみればそのくらいの時期からだねえ。ここの組織もバタバタしていたし詳しくは私は知らないんだよ、ごめんねぇ。』
セシアは慌てて首を振りながら、今まで聞いた話を整理していた。
―――守護神、漆黒の森の均衡、3か月前の事件。…そして母の存在。
まだまだ情報が少ないな。
セシアが考え込んでいると、蘭はクスリと笑って立ち上がった。
『じゃあ、私はそろそろ行くよ。ベルガたちにも挨拶していきたいしね。』
そして元気に蘭は台所を出ていった。
―――まあ、今は神田を助けることが一番だな…
そう思い、セシアも立ち上がるとシキがいるであろう修行場に向かうことにした。