それでも、まだ。
神田がゆっくりこの世界に来てからのことを嗚咽をもらしながら話している間、ナージャは何も言わずに黙って聞いていてくれていた。その雰囲気はやはりベルガに似たものがあって、神田は若干の安心感を覚えていた。
『…そうだったのか。セシアもこの世界に戻ってきてたんだね。』
ひと通り話し終えると、ナージャはしばらく考え込んだ。だが、すぐに顔を上げると、口を開いた。
『シーホークは人の弱みにつけこむのが得意だ。真理ちゃんみたいに何もわからずに不安でいたらつけこまれてもしょうがなかったよ。自分を責める必要はないよ。…それに。』
神田は顔を上げてナージャを見た。
『確かに今は危険な状況なのかもしれないけれど、何もまだ起こっていないのだから。まだ間に合うだろう?泣く必要なんてないじゃないか。本当に信じるべきなのは誰なのかが分かったならそれだけで進展してるんだよ。』
思わぬ言葉に神田は泣いて腫れてしまった目を見開いた。
『まだ、負けと決まったわけじゃない。それに、君はきっとここで捕まっていたら駄目だ。抜け出さなきゃならない。セシアを、いやこの世界さえも救える可能性がきっと君にはある。』
真剣に語るナージャに神田は戸惑った。…救う?私が?救えるの?
『希望を捨てては駄目だ。僕も1年前からこんな状況だったし1人では何もできなかったけど…今なら出来そうだ。』
そう言って傷だらけの顔をくしゃりとさせて笑うナージャに、神田は首を傾げた。
『何が出来るんですか?』
『何って、決まってるじゃないか。…ここを脱出しよう。』