それでも、まだ。
次の日。
…といってもこの地下牢は時間がはっきりと分からず、どのくらい時間が過ぎたかは定かではないが、神田にとってナージャから抜け出す作戦を聞いてから今この時までの時間はとても長いものに感じた。
―――カツン、カツン
『……!』
地上へ繋がる階段の方からこちらに向かって誰かが歩いてくる音が聞こえてきた。
目を凝らしてよく見ると、シーホークやリーヤではなく、少し前まで自分のお世話をしてくれていた使用人のようだ。神田とナージャにご飯を持ってきてくれいるようだ。
<…いいかい、ご飯を運んでくるのはいつもシーホークとリーヤ、そしてペトラルカの3人だけだ。もしもってことがあるから一応警戒はしているんだろう。でも、もしそれ以外の人が運んで来たらそれは…>
…その3人がこの屋敷に今いないということだ。
神田は極めて冷静にいつも通りに丸まって座りながら深呼吸をした。
そしてこの3人がいないとき、すなわち屋敷の中が手薄になっている今が、作戦実行のときなのだ。
『真理様、ご飯をお持ちいたしました。』
使用人が感情がない声で言うと、ガチャンと牢の鍵を開けて入口の近くに質素な食事を置いた。…そのとき神田から目を離した瞬間。
―――ザガンッ
神田は隠し持っていたナイフを思いっきり使用人に投げつけ、そしてそれは見事に心臓の部分を貫いた。
<そして3人以外の「生きている」者はこの屋敷にはいないんだ。あの例の捕まっている人以外はね。その他はよく出来ているがみんなロボットだ。…思いっきり投げていい。>
ナイフはナージャがかろうじて持っていたものであり、器用に足を使って神田へと渡してくれたものだった。胸は動悸が激しく、投げ終わった腕はガクガクと震えている。
使用人は貫かれた瞬間バチバチと音を立てながらゆっくりと倒れた。