それでも、まだ。
『…本当に信じられないな。この子は一体…?』
その後神田とナージャはクロの背中に乗って黒組織を脱出し、漆黒の森の中を走っていた。2人ともクロに何か言ったわけではなかったが、きっとみんながいるところへ連れて行ってくれているのだろう。どちらもそう確信していた。
『分からないです。初めてこんな姿を見ました。…でも、クロのおかげで抜けだせました。ありがとうね、クロ。』
神田がそう言うとクロはグルルと唸ってスピードを上げた。…どうやら嬉しいようだ。
『どうして、1年間も捕まっていたんですか?』
神田は自分を後ろで支えてくれている傷だらけの腕を見ながら聞いた。
『…僕は、他のみんなとは別に、1人でちょっと黒組織について調査をしてて。でも、ある日重大なことを知ってしまったんだ。』
ナージャは上を見ながら話し出した。その表情は後ろにいるのでよく見えないが、なんだか悲しそうに見えた。
『…その事実は、とても衝撃的なものだった。そこでまずは組織に連絡をいれるべきだったな、今思えば。でもそのときの僕は欲の方が買ってしまった。…そして捕まった。シーホークに。』
『重大なことって…?』
神田は聞いていいものかと思いながら恐る恐る尋ねると、それを見越したのか、ナージャはごつごつとした手で神田の頭を撫でた。
『大丈夫、知ろうとするのは何も悪いことじゃない。ただ、知るというのは責任も伴うかもしれない。後には引けなくなるかもしれない。人生が変わるかもしれない。その覚悟は今の真理ちゃんにはあるかな?』
神田はその言葉を聞いて、最初、マダムに言われたことを思い出した。
―――知ったら元の居場所には戻れなくなる。
あのときは若干脅しも入っていたのかもしれないが…。同じようなことを思っていたのだろうか。知られたくないのではなく、守るために…
もう誰を信じるべきか、自分がどうしたいかは神田の中で決まっていた。
…もう、迷わない。
『…はい!』
神田の力強い頷きに、ナージャは気付かれないようにクスリと笑った。
『…じゃあ続きはみんなと合流してからにしよう。やっぱり一筋縄では逃がしてくれないらしい。』
『え?』
神田が後ろを向くと、今はまだはっきりと見えないが、段々こちらに近づいてくる気配があることに気付いた。
『…さあ、これからが本番だ。』