それでも、まだ。
―――――
『…クロ!次は左だ!』
『ガウゥッ』
身軽な動きで、クロは次々と後ろからの攻撃をかわしていく。
『すごい…クロ』
神田は驚きの声を上げると、クロはまたグルルと唸ってさらにスピードを上げた。…褒められて伸びるタイプのようだ。
神田が頭を後ろに向けると、まだ敵の姿は見えないが、攻撃された後は蔓のようなものが何本も生えていっているのが分かった。
『この攻撃はまさか…』
ナージャはギリッと歯を食いしばった。
表情がますます険しいものとなっていくナージャを見て神田がどうしたのかと尋ねようとしたとき、辺りに甲高い声が上がった。
『キャハハハハハハ!!!逃がさない…!』
『ペトラルカ…!』
『あれが…?』
神田がそのまま後ろを見ているとオレンジ色の髪色の女が同じオレンジ色の瞳をギラギラさせながら、大きな鎌に乗ってものすごいスピードで現れた。
『…もう追いかけっこは終わりだ!』
そしてあっという間に神田たちを追い抜き前へと回り込んだ。
『おとなしく捕まりな!』
そう言うと同時に、ペトラルカの両手から蔓が飛び出してきた。
『捕まるわけにはいかない。クロそのまま進んでくれ。真理ちゃんもしっかり捕まって!……ファントムミラージュ!!』
『っ!』
神田は思わず目を瞑った。…がしばらくしても体に衝撃はなく、恐る恐る目を開けた。
『えっ!』
そこにペトラルカの姿はなく、後ろにまた自分たちを追いかける姿が見えた。
『きゃはっ!そうか、お前の能力を忘れていたよ!!』
『な、なんで、どうやって…?』
『説明は後にしよう!このまま逃げ切るぞ!…ん?』
ナージャを見上げていた神田であったが、不思議をそうに遠くを見るナージャに、つられて自分も前を見た。
『え…あれって…!』
神田は嬉しさが含んだ声色で言った。遠くに見えてきたのは、まぎれもなくセシア。セシアだけでなく、他の幹部たちもいるようだ。…だが。
『え…ちょ…クロ、止まって…っ!!』
クロのスピードはまったく落ちず、一直線にみんなのもとへと向かっていく。
『ガルル~!』
『…たぶんクロもみんなとの再会を喜んでるんじゃないか?僕も久しぶりだな~!』
先程とは打って変わってニコニコしながら話し出しだナージャに、神田は焦りを覚えた。
段々近くなるにつれて笑っているレンとマダム、焦るセシア、ジル、シキの様子が神田にはわかった。
『いや、そんなこと言ってる場合ですか!あ…ぶつかる…』
――――ドゴォォン!!
『ぎゃあぁぁぁあ!』
そして思いっきりクロはセシアにとびかかり、叫び声とともにセシアはクロの下敷きになった。