それでも、まだ。
『な、何が起こったんですか!?みんなは…?』
若干涙声になりながら神田がナージャに叫ぶように言うと、ナージャは難しい顔をした。
『分からない…だがきっと漆黒の森から追い出したんだろう…。大丈夫、死んではないさ。』
大丈夫、というナージャの声も不安げに聞こえて、神田は思わず前に座っているセシアの服をギュッと握った。
『…でも、逃げれますか?ナージャさん、でしたっけ。』
セシアが焦ったように言うと、ナージャは乾いた声でハハ、と笑った。
『…どうだろうな。』
神田が後ろを見ると、一定の距離を保ってシーホークがついてきているのが分かった。まるで、この状況を楽しんでいるようだ。
『…いいか、これから2人でこの漆黒の森にあるといわれている癒しの泉を探すんだ。そこできっと何かが分かるはずだ。』
『癒しの泉?そんなものこんなところにあるんですか?というかナージャさんどうするつもりですか?』
神田が早口で言うと、ナージャはしばらく黙っていたが、深呼吸すると口を開いた。
『すまないがここで僕は一旦お別れだ。…セシア、大きくなったね。お母さんそっくりだよ。』
セシアは目を見開いた。
『まさか…駄目です、ナージャさん!せっかく抜け出せたのに…!』
縋るように言う神田の頭をポンっと撫でると、ナージャはくしゃりと笑った。
『すぐにまた会えるさ。僕は大丈夫。言っただろう?君は、いや君たちは捕まっちゃあいけない。』
『さあ、そろそろ追いかけっこは終わりにしましょう。』
シーホークがまた手をかざそうとした。そしてその瞬間ナージャはクロから飛び降りた。
『ナージャさん!!!!』
『頼む。どうか―――』
―――ズゴォォォン!
『―――を止めてくれ…!』
ナージャの悲痛な叫びは、けたたましい音のせいで2人に届くことはなかった。
また、シーホークの攻撃も届くことはなかった。
『…行こう、神田。その癒しの泉を探そう。』
『…うん。そうだね…!』
神田はグイッと手で目元を拭うと、前を見た。
『お願い、クロ!』
『ガルルルル!』
そして2人は後ろを振り返らずにその場を後にした。