それでも、まだ。
闇と浸食
どのくらい走り続けてきただろうか。
ナージャと別れてから、しばらくは2人とも後ろに注意しながら進んで行っていたが、時間が経っても周りに自分たちを追いかけてくるような気配はなかった。もう1時間くらいは走っているのではないだろうか。
神田は目の前にあるセシアの細く引き締まった腰に腕を回してしがみつきながら、クロの背中の上で体を揺らしていた。辺りは相変わらず闇に包まれており、どこまでこの森が続いているのか見当もつかなかった。
ここ一週間、様々なことがありすぎて、神田の頭はごちゃごちゃしていた。
組織を抜け、黒組織に入り、捕まり、ナージャと脱出し、そしてみんなと合流し、そしてまたバラバラになってしまった。
黒組織がセシアを人間界で殺したこと、企み、そして怪しい薬の存在…
神田はセシアに何を伝えればいいか分からなかった。それと同時に、勝手に抜け出してきた自分に対し、一瞬ではあったが変わらず、神田をみた瞬間安堵を見せた幹部たちの表情をみて、神田は胸が苦しかった。
どうも思ってない人を、いくらつらい言葉を投げかけられたとはいえ、本当にどうでもいいと思っていたらこんな森にまで危険を冒してまで来るだろうか。
―――自分は守られていたのだ。この危険な世界から。
シーホークたちや狂気に満ちたSeakたちを見た神田は、改めてこの世界のまだ知らぬ恐ろしさを実感していた。
神田は目の前の背中の温もりにそっと、頬を寄せた。
先程ナージャに見せていた決意とは別に湧き出てくる感情を紛らわすように。
そしてこの腕の中にある温もりを二度と手放したくはないと、神田はギュッと腕の力を込めた。