それでも、まだ。
『最近、母さんに似てるって、よく言われるんだ。』
暫くすると、セシアはポツリポツリと話し始めた。
『もしかしたら記憶が無くなる前から言われていたかもしれない。その辺はまだよく分からない。…でも、何かが引っかかるんだ。』
セシアは俯いた。神田は黙って耳を傾けた。
『みんな、この世界にいる人たちの私の記憶は、私が幼いころのときのものなんだ。どうして、その間、私について覚えていないのかが疑問だった。…でも、この前分かった。』
『何が分かったの?』
神田は若干不安になりながら聞いた。セシアの表情をじっと見るが、まだ真意は分からない。
『蘭さんに教えてもらったんだ。私は、人間界にいた時期があったんだ。理由は分からないけれど。そのときに神田に会った。そしてまたこの世界に戻ってきたんだ。…殺されて。』
神田は目を見開いた。そして頭の中に忘れられない事件が浮かんだ。…セシアはそこまで知ってしまっただろうか。
しかし少し焦る神田とは裏腹に、セシアは神田を見て意地悪そうに笑った。
『…当たり?』
その言葉に、神田はしまったと思った。…カマをかけられたのだ。
神田が何を言うべきが迷っていると、セシアはまたフッと笑った。
『…そんな困った顔しなくても大丈夫だ。それに人間界にいたっていうのを聞いたのは本当だ。…まあ、そのあとのことは憶測だったけど。』
妙に落ち着いているセシアを横目に、神田はギュッと拳を握りしめた。
『…なんで、分かったの?』
神田が震える声で言うと、セシアはうーんと考え込んだ。