それでも、まだ。
――――
『…うっ…』
神田はゆっくりと目を開けた。
…どのくらい気絶していたのだろうか。
段々とはっきりとしてきた頭で神田は先程の出来事を思い出し、ばっと起き上がろうとした。そしてそのとき、ようやく自分の体に巻き付いている腕の存在に気が付いた。
『…セシア!しっかりして!』
黒い竜巻に2人が巻き込まれたとき、セシアが咄嗟に神田を庇ってくれていたのであろう、神田に怪我はなかったが、セシアの腕から抜けてセシアの方を見ると、至る所に、地面にたたきつけられたのか、痛々しい傷があった。
『…ん…?』
心配しておろおろする神田をよそに、セシアは目を開けてゆっくりと起き上がってガシガシと頭を掻いた。
『だ、大丈夫?ごめんね、私を庇って…』
ワンピースのポケットに入れていたハンカチでセシアの傷を優しく押さえる神田をセシアはキョトンとしてみていたが、クスリと笑うと、神田の頭に手を乗せた。
『このくらい全然平気だ。掠り傷だ。』
じっとセシアを見つめる神田にセシアはただそれだけ言うと、よいしょ、と立ち上がり、神田の手を引いて立たせた。
『…それより、私たちはどこに飛ばされたんだろうな。』
『さぁ…でも上を見てみて、森がなくなってる!』
神田は驚いたように声を上げた。
2人の頭上には先程まであった闇に包まれた森はなくなっていて、夜空の月が2人を明るく照らしていた。
『…いや、漆黒の森を抜けたわけじゃなさそうだ。』
『え?』
神田がセシアの方を見ると、セシアは険しい顔つきであった。