それでも、まだ。
『私の母さんを…?』
セシアは少し女性に近づいた。神田もそれにつれて少し近づいた。
『ええ。あなたの顔を見て確信したわ。…さっきは疑ってごめんなさい。そっちの人間の子も。』
悲しそうに眼を伏せた女性に対し、神田はふるふると頭を振った。どうして、この女性はこんなにも悲しそうなのだろうか。
『…あの。教えてくれないか?どうして私の母さんを知っているんだ?あなたは何者なんだ?』
焦ったように問い詰めるセシアに、女性は少し考え込んでいたが、決意したように顔を上げた。
『…話すわ。セシアにも、人間の子にも。その前にちょっと来て?』
言われるがまま2人は女性のいる泉へと歩み寄った。すると、女性は神田とセシアの腕に両手を伸ばし、そのまま触れた。
―――パァァァッ
『…!』
『これは、さっきセシアが傷が治った時の…!』
2人の体はまた眩い光に包まれた。そして光が落ち着いたとき、神田は体が軽くなった気がした。いろいろなことがあって疲れていた足はまた元気に走れそうなほど軽い。セシアの方を見ると、セシアの体の至る所にあった傷も綺麗に治っていた。
2人が驚き、まじまじとお互い自分の体を見ていると、女性は手を放し、そしてふぅっと息を吐いた。
『…2人とも疲れてるみたいだったから。さっき疑ったお詫び。』
表情を崩してへらっと笑った女性に、神田は口を開いた。
『ありがとうございます。あの、あなたはもしかして、癒しの泉の主、のような方なんですか?』
『…そうよ。私の名前はオルオレータ。この癒しの泉の主。今じゃ、癒しの泉はとても弱ってしまっているけれど。』
そう言ってオルオレータは静かに語り始めた。