それでも、まだ。




『今じゃこんな小さな泉だけど、少し前までは結構な大きさだったの。…ほら、この辺りには木が生えていないでしょ?その部分全てが泉だったのよ、昔は。』



そう言われて、神田は改めて周囲を見渡した。森は随分と遠くに見えて、癒しの泉は結構な広さであったのだろうと思った。




『…そんなに大きかった泉がどうしてこんな小さくなってしまったんだ?』



幾分か落ち着いたセシアはオルオレータに尋ねた。セシアもそうだが、神田もここに飛ばされたときより心が安心しているような気がした。これもオルオレータの力であろうか。




『そうね…どこから話したらいいかしら。…この漆黒の森が、ほとんどこの世界の者が立ち入らない場所であることは知っているわよね?』



その言葉に2人は同時に頷いた。その様子にオルオレータは満足げにほほ笑むと、言葉を続けた。



『確かにこの森は危険。でも、12年前までは、それなりに安全な森だった。ただ、森が覆い茂り過ぎて迷うから好んで入らない、という理由だけたった。』




2人は黙ってオルオレータの次の言葉を待った。



『セシアのお母さんとはその漆黒の森が安全だった時期に出会ったの。ほんと偶然にね。迷い込んで来たの。』




オルオレータは懐かしむような声で言った。表情も段々と優しくなってきていた。



『セシアのお母さんの名前はリリア。リリアもそのとき組織の幹部だったしとっても強かった。私と知り合ってから何回もこの場所を訪れるようになったの。いつも迷うくせにね。』



クスクスと笑いながらオルオレータは言った。




『リリア…それが私の母さん…?』



セシアは初めて聞くのであろう、母の名前を噛みしめるように呟いた。
オルオレータはその様子を見て少しだけ悲しそうな顔をした。




『リリアからあなたのことはよく聞いていたわ。とても楽しい時間だった。でも、長くは続かなかった。12年前のあの事件が起きてから、すべてが狂い始めた。』



オルオレータの表情は、いつの間にか険しいものに変わっていた。




『12年前の事件って…?』



神田は恐る恐る尋ねた。



『…私も詳しくは分からない。でも、事件が起こる前、リリアは私に会いに来て、私に言ったの、』




『―――これからこの森の均衡が崩れるかもしれない、でもオルオレータがこの森を守って――――って。』









< 203 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop