それでも、まだ。
『準備はいい?』
オルオレータの言葉に、2人は頷いた。神田とセシアはオルオレータと共に癒しの泉に入り、手を握っていた。
『たぶん5分くらいで着くと思うわ。呼吸はちゃんと出来るし、リラックスしてね。…あ、そうだ。』
思い出したようにオルオレータは神田の方に向き直ると、セシアと握っていない方の手を両手で包んだ。
そうすると、少しだけその部分が輝き、気付いた時には手首に透き通った水色のパールでできたブレスレットがついていた。
『わぁ…!綺麗…』
神田が驚きつつ嬉しそうにブレスレットを見ていると、オルオレータはクスリと笑った。
『さっきはありがとう。嬉しかったわ。それはお礼。そこまで効力は強くないけど、人間の匂いを少し隠してくれるわ。…私は気にしないけど、もしかしたら人間を嫌って襲ってくる人もいるかもしれないから…』
オルオレータの気遣いに、神田は胸がいっぱいになった。ここから行く場所は未知なのだ。組織の管轄外でもあるし、人間である自分は注意しなくてはならないだろう。セシアに迷惑もかけたくはない。
『ありがとうございます。大事にしますね。』
『…ええ。あ、そういえぱ名前を聞いてなかったわ。』
『あ、そうでした。私は神田真理です。』
『真理…いい名前ね。』
オルオレータはほほ笑むと、改めて2人に向き直った。
『じゃあ…行くわよ。セシア、真理、絶対に帰ってきてね。私は南に行かせることは出来るけど、逆は出来ないから…。また、私に会いにきて。約束して。』
『…ああ。約束する。帰りはなんとかするさ。』
『はい!また会いましょう!』
少しまた涙声になったオルオレータに2人が笑いかけると、オルオレータも満足そうに笑い、そしてふぅっと息を吐いた。
――――パァァァッ
オルオレータが2人の手と握りしめてグッと力を入れると、凄まじい光が2人を包み込んでいった。
そして神田は、すぐに意識が遠くなってきて、瞼を落とした。
最後に瞳に映ったのは、涙を流しながらも必死に笑いかけるオルオレータだった。