それでも、まだ。
――――――ピチャン……
『…ん』
水が滴る音が聞こえて、神田は目を覚ました。
ぼんやりとしながら体を起こし、自分の状況を見ると、どうやらどこかの川岸にいるようだった。目の前にはには自分を運んでくれたのであろう大きな川が静かに流れていたが、自分の体は不思議と何処も濡れていなかった。
体をよじって後ろを振り返ろうとしたところで、右手の違和感に気が付いた。
『…セシア』
その手の先には未だに目を覚ましていないセシアがおり、意識がないながらも神田とつないでいる手はとても力強く、神田をとても安心させた。
『…あ…着いたのか…?』
神田が動いたことで目が覚めたのであろう、セシアも手を離さないままゆっくりと体を起こした。
『…ここがこの世界の南なのかな…』
『…そうだと思うが…にしても噂に聞いていたより明るくないか?』
そう言いながらセシアは身をよじって後ろを振り返った。
しかしすぐに口をつぐんで目を見開いた。
『セシア?』
突然固まったセシアに不思議に思いつつ神田も後ろを振り返ると、そこに広がる風景に同じく目を見開いた。
『…辺りが明るいんじゃなく、これから漏れる光のおかげだったのか…』
『…そうみたい、だね。』
2人の視線の先には、少し離れた場所に大きな要塞があった。
果てしなく左右に続く壁は、中の様子を見ることを許さず、また壁の高さもここから見てもとても高いものであることが分かり、中にいる者が逃げられないようにしているような印象を受けた。
しかし、天井までは塞げなかったのか、壁の上から要塞の外へと漏れる光が、辺りを薄暗く照らしていた。
『…要塞以外を見ると本当に真っ暗だし、ここが南で間違いなさそうだね。』
『…そうだな。ということは、あの要塞がレンさんたちが言っていた王国、なのか…?確かにとても大きいな。』
神田とセシアは手を離すと、ゆっくりと立ち上がった。
『…ほんとに王国なのかな。なんか刑務所みたい…入れるかな?』
『うーん、まあ周りが暗くて危険だからなのかもな。というかどうやってあんなに明るい光を出しているんだ?』
『…この世界には蛍光灯ないもんね。せいぜい提灯みたいにして部屋を照らすしか出来ないもんね。何かここにしかないものでもあるのかな。』
2人で要塞を見た印象を話していたが、ふとお互いに黙り、頷き合った。
『…行ってみないと分からないな。』
『そうだね。行ってみよう!』
そして2人は要塞に向かって歩き出した。