それでも、まだ。
『あの、セシアさん。』
トイレからの帰り道、セシアの背中に話しかけた。
呼び捨てはちょっとしてはいけないような気がした。
『ん?どうした?』
『…いや、なんでもないです。』
『なんだそれ。』
セシアは笑った。
つられて自分も笑った。
最初よりは話しやすくなってきただろうか。
私はセシアの首に回している腕に力をいれた。
『…?神田、どうした?』
セシアは不思議そうに問いかけ、神田の顔を覗き込もうとしたが、神田はセシアの肩にぐっと顔を埋めた。
…まだ二人は今知り合った人同士のような関係だ。
私が敬語を使うこと。
セシアが私を神田って呼ぶこと。
少し警戒してるようなそぶりを見せることも。
私はどうしてセシアが生き返っているのかも、どうして記憶をなくしているのかも知らない。
もしかしたら夢かもしれない。
…もしかしたら別人かかもしれない。
…それでも、いい。
私はこの人のことをもっと知りたい。
『神田?』
『……エヘヘ。』
『…ホント変な奴だな。』
ちょっとずつでもいいから。
夢でもいいから。
少しでも長く、私の傍にいて――…。
そう思いながら神田は更にセシアの肩に顔を押し付けたのであった。
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