それでも、まだ。

――――


『はあぁ〜〜。』



先に広間を出たレンとジルは、重い足取りでそれぞれの部屋に向かっていた。



『…ジルがうまくごまかしたとは言え、どこまでごまかせるかなー。』


レンが両腕を頭の後ろに組んで歎くと、ジルもふぅ、と溜め息をついた。


『そうだな…。ある意味、セシアと神田を同じ部屋にするのは賭けだな。』


『まぁね。でも仕方ないよ。僕たちのどちらかと一緒にするって方が不自然だし。』



『…ああ。幹部にも神田と接触する前に事情を伝えなければ。』



『うん。誰が一番早く帰って来るっけ?』



『確か…明後日マダムが帰ってくるはずだ。その2日後がシキだったろう。』


レンは顔をしかめた。


『マダムね…。早く伝えとかないと、あの人は面倒なことになりそうだなぁ。』


『フッ。確かにな。俺が明日にでも伝えておく。』


『うん、ありがとう。じゃあ、僕はこれで。後でセシアが来るから、部屋を片付けとかないとね。』



レンがおどけて言うと、ジルは少し笑ってまた溜め息をついた。



『…どうせしないだろう?』


『ハハッ、ばれた?』


『何年のつき合いだと思っているんだ。』


『えっと…15年?』


『真面目に答えるな、そして16年だ。』


『もうそんなになるか〜。』


『そうだ…。ってこれはどうでもいい。』



ジルは腕を組んだ。



『…ジルが振ってこなかった?』



レンがすかさずつっこむと、ジルは一瞬黙ったが咳ばらいをして続けた。



『…とにかくだ。俺は隣にいる。何かあったら呼べよ。』



そう言って、ジルはレンの部屋の隣である自室に入っていった。




『…セシアのことを警戒してんだろうな……。』



まあ無理もない。


セシアだってこの世界に入ってまだ3ヶ月だ。



神田真理という存在によって何か記憶を思い出す可能性もある。


なにより、あの子がセシアの生前に深く関わっていたということは、2人を見て明らかだった。




――まだ記憶を取り戻すには早過ぎる。



運命は残酷だ。



レンは一人苦笑しながら自室に戻って、セシアの訪問を待つのであった。



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