それでも、まだ。
――――――
『レンさん、失礼しますよ。』
セシアがレンの部屋に入ると、レンはお風呂に入ったのか、服は寝間着になっており髪にタオルをかぶせていた。
『あれ?早かったね。真理ちゃんにちゃんと説明してあげた?』
『…はい。部屋の中のトイレと風呂の場所くらいは。』
『素っ気ないなぁ。もっとゆっくり来てよかったのに。』
『………いや、神田がなんだか元気がなくなって、いたたまれなくなってしまったんで。』
『………。』
レンはふと考えるような表情になったがすぐに戻って、
『…そっか。まあ、座りなよ。』
そうセシアに仰いだ。
近づいていくとシャンプーみたいな匂いが鼻に届き、セシアを少し安心させた。
…この匂いは、いつも自分を安心させてくれる。
記憶がなくなっても、この匂いだけはなんだか覚えている気がした。
『…セシア?どうしたの?』
ボーッとしすぎていたのか、レンが不思議そうにしていた。
『あ、いや、なんでも…。』
そう言って、私はレンの向かい側のソファに座った。
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