それでも、まだ。
『さて、どこから話そうか?』
レンは笑っていた。
しかし、先程の廃墟のときのような笑みではなかった。
――今は、あまり怒っていないのだろうか。
『うーん、じゃあ、僕から話そうか。真理ちゃんをここにおく理由。』
『――!』
頭をガシガシ掻きながらレンが言ったのを聞いて、セシアはぱっと顔を上げた。
それはセシアが1番聞きたかった事だ。
『まあ、理由はいろいろあるんだけど…。一番の理由は調査のためだよ。』
『調査?』
セシアは首を傾げた。
『そ。セシアが記憶をなくす前にね、ある事件があったんだよ。』
『ある事件?それと神田に何の関係が?』
『話せば長くなるんだけど…、あのさ、真理ちゃんが言ってた老人のこと覚えてる?』
『…マントを被っている?』
『そうそう。その老人とその事件が関係あるんだよ。』
『だから、神田も関係あるかもしれない、と?』
『まあ、そんな感じだよ。それに、あの老人を見つけないと真理ちゃんを元の世界に帰せないし。』
レンとジルが神田の話で驚いていたのはこれか。
『でも、他の方法とかないんですか?それに、その老人も別人かもしれないんですよ?』
『だから、一応だよ。しかも他の方法は危険なんだ。その老人も、別に捕まえてどうこうしようとするわけじゃないしね。』
『だったら、その老人は何者なんですか?』
『うーん…、僕たちも老人が何者なのかについては、よく分からないんだよ。だから、調べてる。』
レンは困ったような表情をしていた。
…これは嘘じゃなさそうだ。
『そうですか…。というか、事件って何が起こったんですか?』
『………。それは時期が来たらそのときに話すよ。』
レンは無表情だった。
このときレンは何を考えているのかがセシアには分からなかった。
蒼色の眼で、セシアの方を見ているが、どこか遠くを見ている。そんな感じだった。
だが――…
これがレンとジルが自分に隠していることだろうと直感で思った。
神田の話で驚いたのも、こちらの方が大きいだろう。
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