それでも、まだ。
しばらくの沈黙が続いた。
それはたった数秒だったかもしれないが、神田にとっては数分もの長さに感じた。
やがてレンは掌を額に当てて俯いた。
『ハハ……敵わないなぁ。…そっくりだよ。』
あまりに小さい声で、神田は聞き取れなかった。
聞き返そうとすると、隣からぐいっと引き寄せられた。
『マ、マダム!?』
神田は驚いて声を上げたが、マダムは気にも留めずに抱きしめる力を強めた。
『いいから、こうさせておくれよ。』
マダムの表情は見えなかったが、先程よりもとても穏やかな声色だった。
心なしか、涙ぐんでいるようだ。
マダムの腕の隙間から向かい側をみると、レンとジルも笑っていた。
――よかった。
私の想いは、伝わった。
『…羨ましいね〜?ジルぅ。』
レンがニヤニヤとジルに言うと、ジルは何故か顔を紅くした。
…なんでだろう?
『な、なっななにを…!?』
『…焦りすぎじゃない?いやだからマダムの立場になり』
『あぁぁぁぁぁ!!……目にゴミが入った!!』
『いや今叫んだ理由考えたよね?しかもそれ普通叫ぶ?』
レンとジルのやり取りをしばらく見ていた神田とマダムは一緒に吹き出した。
それを見たレンも笑い、ジルも照れたように笑った。
『…まあ、とにかく、真理ちゃんが元の居場所に戻れるまでは、よろしくね?僕たちも、早く帰れるように協力するからさ。』
『………はい!こちらこそ、よろしくお願いします。』
マダムから離れて、神田はもう一度頭を下げた。
『それで、その……。結菜、じゃなくてセシアさん達は、夕方には帰ってくるんですよね?』
『ああ、そうだと思うが…。』
ジルの答えに、神田はにこりと笑った。
『お願いがあるんですが…。』
『ん?なになに?』
レンは目を輝かせた。
『それは――…』
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