それでも、まだ。

――――――



『シキさん、これで全部ですか?』


セシアは取り締まった薬物を集めながら言った。



『んー、せやな。あとは地下だけやな。』



シキと呼ばれた男は、鍛えられた体格の良い体で薬物が詰まった段ボールを軽々と4つもいっぺんに運びながらセシアに答えた。




『分かりました。…しかしまぁ、よくこれだけ隠してましたね。』



セシアは積み上げられた段ボールを数えながら溜め息をついた。



…ざっと20個はあるだろう。




『…最近なんかいろいろ起こってるんや。この薬物も何に使うかなんて得体が知れんわ。』



シキは段ボールを置いて、顔を歪めながら言った。




『…シキさんが今回早く仕事を終えたのにも何か関係が?』



『いや…、どうやろうなぁ。アヴィルさんに聞いてみな分からん。俺も状況を掴めてないんや。』



シキは頭を掻きながら困ったように笑った。



『そうですか…。そういえば、マダムも早く帰ってきたらしいですよ。』



セシアは思い出したように言った。



『ほんまか?…怪しいな…。』


『…?何がですか?』



何かぶつぶつ言い出したシキを怪訝に思ったセシアが覗き込むように尋ねると、シキはパッと顔を上げた。



『い、いや、何でもないんや。気にせんとってな。ほな、地下に行こか。』




慌ててそう言うと、シキはセシアに背中を向けた。




――シキさんも、か。



みんなセシアに言えないことを隠しているのだ。



…シキさんは幾分分かりやすいが。



自分が記憶を無くしたからはといえ、いくらなんでも隠しすぎではないだろうか。



…自分だってちょっとやそっとの奴には負けないくらい強くなったつもりなのだが。



――信頼されていないのだろうか。



心にぽっかりと穴が空いているような気分だ。






『セシアー?どないしたんや?はよ行くでー!』




いつの間にか離れて遠くにいたシキが手を振っていた。



『は、はい。今行きます。』



慌ててシキの後を追った。




――自分の心にある孤独感を必死に無視しながら。
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